中年、無職、写真を撮る

ささやかな人生の、通り過ぎていく日々を記録する。

ツルテンのこと

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僕が子どもの頃は塾通いが当たり前になる前だったので、公園でよく遊んだ。

その公園に、怪しいおっさんが入り浸っていた。僕ら子どもたちからツルテンと呼ばれていたそのおっさんが一体何者だったのか、今もよくわからない。

ツルテンというのが彼の名字なのか誰かがつけたあだ名なのか、それもわからない。たぶんあだ名なんだろうと僕は勝手に思っていたけれど、鶴田と天龍なら略称は鶴龍になるはずだし、とにかくツルテンの由来はよくわからない。

今思えば、色黒で貧相で見るからに不審なおっさんだったけど、僕らはお構いなく彼とよく遊んだ。とにかく学校が終わって公園にいくとツルテンはたいていそこにいた。

 

彼について、母親と二人暮らしだという噂を聞いたことがあった。新興住宅地の外れにある、僕が足を踏み入れたことのない未舗装の道の先にある古いアパートが彼の住処だという、そういう話だった。

 

公園にはシーソーがあった。鉄製だったけど錆びていて今にも壊れそうだった。

ツルテンのいないある日、これに大勢で乗ったらどうなるかという話になり、友達みんなで乗ったら真ん中からあっさり折れた。なんだか楽しくてみんなで大笑いした。

次の日公園に行くとツルテンがいた。彼は壊れたシーソーを前に「これは俺が空手チョップで壊したんや」と誇らしげに語っていた。

子どもながらにも彼が普通でない人だということはわかっていたけれど、ツルテンは信用できない嘘つきだ、と改めて僕は思った。

 

家族と出掛けたある日、ということは休みの日だったということになるけれど、駅に行く途中で、ツルテンらしき人が警察官らしき二人に挟まれるように歩いているのを見かけた。

遠目に後ろ姿だけだったので確証はないけれど、それでも僕は、ツルテンが警察に捕まったんだと、なぜかはっきりそう思った。

 

その後、公園でツルテンを見ることはなかった。

彼が何をやらかしたのか、いやそもそもあれが本当に彼だったのか、それは未だにわからない。

 

ツルテンと、そして彼の母親はどこに行ったのだろう。今、何をしているのだろう。

故郷に帰るたびに懐かしい町は姿を変える。道路はきれいに舗装され、彼が住んでいたというアパートは跡形もない。

そして無職の僕はいま、あの頃の彼と同じくらい歳をとった。